従来、皮膜硬さを試験する方法として、ビッカース硬さ試験、ロックウェル硬さ試験、ブリネル硬さ試験、ショア硬さ試験などが知られています。しかし、これらのどの方法も試験力が大きく、メッキ皮膜だけの硬さを試験することが困難です。その中でも良く使われている硬さ試験方法としては、メッキ厚みを相当厚くつけ、正四角錐のビッカースダイヤモンド圧子を押し込むことでできたくぼみの対角線の長さを顕微鏡で測定し、断面積を求めるマイクロビッカース硬さ試験法があります。
年々メッキ皮膜は高性能化、高機能化、薄膜化し、そのメッキ皮膜硬さや物性評価は現実には対応しきれていません。試験力が小さくなると当然圧痕も小さくなり、くぼみの対角線の長さを顕微鏡で測定する方法では不可能となります。基材の影響を受けずにメッキ皮膜の硬さ試験をするには皮膜厚さの10分の1以下の押し込み深さにする必要があるといわれています。1µmの皮膜だと押し込み深さを約0.1µm以下にする必要があり、くぼみの対角線の長さにすると約0.7µm程度になります。その0.7µm程度の対角線長さを顕微鏡で精度よく測定することは非常に困難となります。
メッキ皮膜の高性能化、高機能化、薄膜化に伴い、メッキ皮膜の硬さや物性評価を高精度に試験できる新しい試験装置の開発要求が高まってきています。
ドイツのH. Fischer社は、皮膜の硬さと物性を圧子押し込み深さを直読することにより硬さ評価する試験器をドイツの研究機関と共同で開発しました。この試験機をベースに1997年ドイツ規格DIN50359でインデンテーションテストがユニバーサル硬さ(HU)として世界で初めて工業規格化されました。そして、2002年インデンテーション法がDIN50359からISO EN DIN 14577で国際規格化され、名称がユニバーサル硬さ(HU)からマルテンス硬さ(HM)に変更されました。それと同時に薄膜関係の評価用にナノレンジ硬さ試験が追加され、H. Fischer社は2002年に試験荷重を1µN(約0.1mgf)からステップ的に連続して荷重を増加しながら、その押し込み深さをピコメーター単位で読み取り、表層の硬さおよび物性を試験するナノインデンテーションシステムを開発しました。
従来の試験方法では限界があるといわわれてきたケースにおいても、迅速、正確、効率的に測定を行う試験装置で、メッキ皮膜の硬さや物性、薄膜コーティング、弾性皮膜の物性分析などで新しい情報が得ることができます。